東京高等裁判所 昭和26年(ネ)142号 判決
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〔事実〕
被控訴人は貸金債権を請求原因とし、控訴人らに対し連帶して金八万五千円及びこれに対する昭和二十三年九月二十一日から支拂済まで月五分の金員の支拂を求め、原審はこれを認容した。控訴人らは控訴審において始めて相殺の抗弁を提出し、「控訴人橫山は弁護士であるが、被控訴人は同人と訴外服部との間の紛爭につき、控訴人橫山にその解決方を依賴し、円満に解決したならば金十万五千円を報酬金として支拂う旨を約した。同控訴人はよつてその解決に盡力し、成功したから被控訴人に対し同額の報酬金債権を取得した。同控訴人は昭和二十五年十二月二十日被控訴人に対し、右十万五千円の債権と被控訴人が同控訴人に対して有すると称する八万五千円の保証債権とを相殺する旨の意思表示を爲した。よつて被控訴人の本訴貸金債権は完済せられている。」と主張し、被控訴人は右相殺の抗弁は時機に後れた抗弁であるから却下を求めると述べた。
〔判斷〕
控訴審は控訴人の相殺の抗弁を時機に後れて提出せられたるものとして却下した。その部分の説示は次の通りである。
「当審における橫山壽の供述によれば同人は弁護士であることが認められるから、民事訴訟手続に関する法規も十分熟知していたものと認むべく、記録によれば本件訴訟は昭和二十四年一月二十一日原審へ提起せられて以来、昭和二十五年七月十日口頭弁論が終結せられる迄、回を重ねること十六回にも及び右相殺の抗弁はその間原審へ提出しうる余裕が十分あつたものと考へられる。当審における橫山壽の供述によれば、控訴人らが原審においてこの抗弁を提出しなかつた理由としては、被控訴人と和解交渉中であり、成可く和解によつて解決せんと考へた爲であると言うが、同人の供述によつても明かな如くに、被控訴人は本訴提起前本件貸借を橫山壽の詐欺によるものとして同人を橫浜地方檢察庁へ告訴迄した程であり、本件においても原審においては第一回から第十回の口頭弁論迄は双方主張立証に終始し、その間の和解交渉が行われた事跡なく、唯僅かに第十回の昭和二十五年一月十一日の口頭弁論において控訴人ら(原審被告ら)代理人から、和解の勸告を申立て被控訴人(原審原告)代理人においてこれに反対したが、原審においては和解勸告をなすことを決定し、その後の口頭弁論において控訴人らが不出頭のため和解勸告が打切られ、弁論が終結せられたもので和解勧告は殆んど行われず、原審訴訟手続において和解勧告が長く行はれたものでもなく、且從前の経過からすれば和解が容易に成立するものと予想することは難く、又右終結せられたる口頭弁論はその後控訴人らの申請によつて再開せられながら、右相殺の抗弁の提出もなく、原審口頭弁論は再び終結せられた事実が認められる。以上認定の訴訟の推移経過と資料によれば右相殺の抗弁を当審において新たに提出することは、控訴人らにおいて故意又は重大な過失によつて時機に後れて提出したものと認めざるをえないから、この理由により右抗弁の却下を求める被控訴人の申立は相当であるから同抗弁を却下する。」